30年以上もの間、ほとんど動きのなかった香港ドルレートがここにきて大相場を迎える可能性が出てきています。これは利益を得るチャンスなのでしょうか?ここでは香港ドルレートの今後について、投資の妙味について考察します。
【はじめに】香港ドルのレートについて
香港ドル(=HKD)は米ドルペッグ制、つまり米ドルレートに連動させる形で運用されています。
厳密に言うと、1米ドル = 7.75~7.85香港ドルという非常に狭いレンジ内でのみ変動することが許容されており、もし香港ドルレートがこのレンジの外に出ようとした場合は、香港金融管理局が介入し、レンジ内で収まるように為替レートを誘導すると公言しています。
※過去10年間のUSDHKD(米ドル香港ドル)チャート。非常に狭いレンジ内で推移しているのが特徴。
日本で生活しているとUSDHKDのレートというのはちょっと取っつきにくいかもしれません。USDHKDのレンジがどれほどの狭さかをドル円に置き換えて例えてみます。
ドル円レートは「1ドル100.00円~101.20円」の間での変動しか許容しません。
⇒ もしレートがこのレンジを外れようとしたときは、日銀が無制限に為替介入して全力で阻止します。
⇒ もしレートがこのレンジを外れようとしたときは、日銀が無制限に為替介入して全力で阻止します。
と言ってるのと同じことです。
香港当局は米ドルペッグ制に移行してから30年以上の間、道中に細かなルール変更はあったものの、アジア通貨危機、香港返還、リーマンショックなど様々なインシデントを乗り越え、一度もペッグ制を破られることなく守り続けてきました。
しかしながら、経済状況は時代の変化と共に刻々と変化します。
動もすれば固定的な相場は、いずれは時代にそぐわなくなり終焉を迎えることとなります。もしかしたら香港ドルの米ドルペッグ制が近いうちに終わりを迎えるかもしれないという観測をする人が出てきているのが今です。
今、香港ドルに何が起こっているのか
まず基本的な話をすると、香港ドルを米ドルと連動させるということは、金利を常に米国に合わせ続けないといけません。そうしておかないと、交換レート比率は一定ならば誰だって金利が低い方の通貨を売って金利が高い方の通貨を買いたいと思うでしょう。たちまちレートが一方向に傾き、ペッグ制は崩壊します。2018年4月には、1米ドル=7.75~7.85香港ドルのレンジが定められて以来、初めて7.85の上限に到達することになりました。
(注:USDHKDが上限に達したということは米ドル高、香港ドル安だということです。話の本質は『今、香港ドルがどんどん下落している』ということです。)
それを受けて、ついに2018年4月12日には香港当局は、保有している米ドルを売却して香港ドルを買い付ける介入に踏み切りました。
その後、断続的に10回以上の介入を遂行しました。
~参考~
-【2018/04/13】香港ドルが下限到達、HKMA介入動く
-【2018/04/17】香港金融管理局が再び為替介入、57.7億香港ドル買い入れ
-【2018/05/17】香港金融当局、一夜で1340億円費やす-ペッグ防衛で香港ドル買い介入
~なぜこのタイミングで上限7.85に到達したのか~
近年、米国金利は上昇し続けている
↓
香港はペッグ制を採用している限り、米国金利に合わせる形で金利を上昇させ続けるしかない
↓
香港の民間金利が金利上昇についていけなくなってきて、低水準で停滞
↓
『米国の民間金利 > 香港の民間金利』 となり、香港ドル売り圧力増大
近年、米国金利は上昇し続けている
↓
香港はペッグ制を採用している限り、米国金利に合わせる形で金利を上昇させ続けるしかない
↓
香港の民間金利が金利上昇についていけなくなってきて、低水準で停滞
↓
『米国の民間金利 > 香港の民間金利』 となり、香港ドル売り圧力増大
さらにはずっと以前から香港ドルのペッグ制については問題点が指摘され続けており、その問題点に関する議論がここに来て再燃している感はあります。
米ドルペッグ制を継続することの問題点:
1,他国の通貨と連動させているがゆえに、自国でできる金融政策が限られてしまう。
2,香港は中国に返還されて久しく、今や中国経済と密接な関係があるにも関わらず、いまだに(中国元ではなく)米ドルと連動させている意味が分からないという指摘。
1,他国の通貨と連動させているがゆえに、自国でできる金融政策が限られてしまう。
2,香港は中国に返還されて久しく、今や中国経済と密接な関係があるにも関わらず、いまだに(中国元ではなく)米ドルと連動させている意味が分からないという指摘。
このあたりの事情に関しては、詳しく解説されている記事を紹介しておきます。
~参考~
香港ドルが歴史的に安くなっている状況に関する整理 – TRAVEL=LIFE
香港当局は現在、とても難しい舵取りを迫られています。香港当局の判断によってはペッグ制の廃止であったり、今とは違うレートにソフトランディングさせるような決定が行われてもおかしくない状況だということです。
FXで利益を狙うなら
捉え方次第では、今まさに千載一遇のチャンスが来ていると言えるかもしれません。下図のように、USDHKDは下値リスクが限定的である一方で、もしレンジをブレイクすれば上値はどこまでいくかわからないという状態のため、USDHKDをロング保有すればローリスクハイリターンが実現できます。
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■シナリオ別考察
①上限突破した場合:
果たしてどこまで上昇するか誰にもわかりませんが、長年続いたレンジ相場から一気にブレイクアウトしたときの上昇エネルギーは相当なものになると想像できます。最も劇的なシナリオを予想するならば、スイスフランショックのようなクラッシュが起こることが考えられ、穏やかなシナリオで予想するならば、香港当局がレートのレンジを上方修正(例:7.75~7.85だったレンジを7.85~8.05に変更)する可能性などでしょうか。
ちなみにスイスフランショックの際は、ペッグの防衛ラインが破れた瞬間、ヘッジファンドがあらかじめ仕込んでおいた大量の注文が執行されたためにあれほどの凄まじいクラッシュが起こったという背景がありました。今回もヘッジファンドが同じような準備をしている、つまり上限である7.85を少し上回った付近で大量の買い注文を仕込んでいる可能性は十分考えられます。
②上限突破せずに反落した場合:
仮に上限7.85から下限7.75まで目一杯下落したとしても、(もちろんポジション保有量によりますが)損失は限定的です。また、現在のように「米ドル金利 > 香港ドル金利」の状態が続いている限りは、ロング保有でスワップを貰い続けられるため、損切りで終わったときの損失額を軽減することができます。
③下限を割れる可能性:
取り巻く環境がよっぽど激変しない限りその心配はないかと思われます。世界情勢に相当な変化があった場合のみ再考すればよいかと思います。
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ちなみに、7.85の上限は防衛されると見てる方も多いのですが、それであっても7.85付近でショート保有するのは極めて危険です。もし上限突破した際には、それこそ2015年のスイスフランショックの時に壊滅的な損失を被った人と同じ目に合うかもしれません。
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MEMO:
USDHKDが上限に達する = 香港ドルの価値が落ちている
USDHKDが下限に達する = 香港ドルの価値が上がっている
です。
混乱しそうになりますが、ドル円相場のことを考えるとわかりやすいです。
1ドル = 70円 は円高
1ドル = 150円 は円安
という話と理屈は全く同じです。
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USDHKDを扱っているFX業者は少ない
日本人顧客向けのFX業者はクロス円が中心に扱っていて、円が絡まない通貨ペアはあまり充実していないことが多く、USDHKDを扱っている国内FX業者は少なめです。
USDHKDを取り扱っている主な業者
・デューカスコピー ※筆者ポジション保有中
・ヒロセ通商(LION FX)
・YJFX
・OANDA
突破の可能性は高くないが、もし突破した場合のリターンは大きい
近いうちにUSDHKDが上限突破する可能性はどれぐらいあるのでしょうか。個人的な肌感覚の話になってしまいますが、そんなに高くないとは感じています。突破しない可能性の裏づけとしては、
・香港当局が保有する、介入のための潤沢な資金。ヘッジファンドの攻撃にも十分耐えられる資金量だと考えられる
・30年以上も防衛し続けていたものをちょっとやそっとで解除するとは考えにくいという一種の信頼感
・30年以上も防衛し続けていたものをちょっとやそっとで解除するとは考えにくいという一種の信頼感
といったところでしょうか。少々のことでは上限を破られることはなさそうです。
ただ、ペッグ制の崩壊は突然訪れます。私が忘れられないのは、スイスフランショックの前の静けさです。ご存知の通り、スイスフランショックは、それまでユーロペッグ制を採用していたスイスフランに関して、スイス銀行総裁が突然、ペッグ制をやめると宣言し、その瞬間に相場がクラッシュして各地に大きな影響が出た事件です。
スイスフランショックの前、ペッグ制崩壊の噂は少なくとも日本にはほとんど届いておらず、チャートがわずかに不穏な様子を見せているなぁと感じる程度に過ぎませんでした。そんな中、スイスフランのクラッシュの可能性についての記事自信なさげに書いてみたのですが、その直後にまさかあんなことになってしまって自分でも驚きました。
スイス銀行総裁も直前まで「ペッグ制を守るために無制限に介入を行う」と宣言していました。そう言わないと市場の混乱を招くだけなので、当然のスタンスかもしれませんが。いずれにせよ、大相場は突然訪れるのだということは当時を思い出しながら改めて感じたまでです。
そのようなことを踏まえたうえで、
・もし上限を抜けた場合のリターンが大きいこと
・『米ドル金利 > 香港ドル金利 』の状態が続くうちはスワップが貰い続けられること
・『米ドル金利 > 香港ドル金利 』の状態が続くうちはスワップが貰い続けられること
という点を考慮し、気長にUSDHKDを中長期でロング保有する妙味は大きいと見ています。
まとめ
・香港ドルは米ドルペッグ制
・初めて上限の7.85に到達。近頃何かが起こるかもしれない雰囲気はある
・上限突破すれば大相場になり、為替差益を得るビッグチャンス。
・ただし、容易に上限突破できるものではなく、香港当局も上限ラインを防衛するのに十分な力は持っている。
・とはいえ、ロング保有したのに相場が逆行してしまったとしても、もともと変動幅が小さいのでリスクは極めて限定的。
・現在の状況が続く限り、USDHKDロング保有でスワップポイントを貰い続けることができる。
・可能性は高くないものの、上限突破を狙ったポジション保有は妙味ありと思う。
・初めて上限の7.85に到達。近頃何かが起こるかもしれない雰囲気はある
・上限突破すれば大相場になり、為替差益を得るビッグチャンス。
・ただし、容易に上限突破できるものではなく、香港当局も上限ラインを防衛するのに十分な力は持っている。
・とはいえ、ロング保有したのに相場が逆行してしまったとしても、もともと変動幅が小さいのでリスクは極めて限定的。
・現在の状況が続く限り、USDHKDロング保有でスワップポイントを貰い続けることができる。
・可能性は高くないものの、上限突破を狙ったポジション保有は妙味ありと思う。
【USDHKD取扱】デューカスコピー・ジャパン
※本記事はあくまで個人的な相場の見解です。取引を行う際は必ず自己責任の下でお願い致します。