人と話をしていてAIの話題になることが時々あるのですが、芯を食った話にまで進展することは少ない気がしています、私だけかもしれませんが。もちろん話をどんどん深めることができてる方もいらっしゃるかとは思います。ただ私のケースで言うと、たとえば同業者と話しててもAIの使い方は自分とはまるで違いますし、ましてや専門分野の違い、前提知識の違い、AIに求めることの違い、大企業社員・中小企業社員・個人事業主・経営者・学生といった立場の違い ――――― 同じAIを見ていても見えている景色は億人億色で、そのことを理解していないと話を深めることが難しいと思うんですね。まだ小さいうちの息子のなんかは、AIには自分の嫌いな食べ物をかわりに食べてほしいとか申しております。
他の人がどんな風にAIを使っているかはすごく興味があるし面白いのですが、それらを参考にしたり自分に取り入れたりできることって意外と少ないなと感じてます。 目の前に私よりもはるかに先に進んだことをやっている人がいて「これはぜひ自分も取り入れてみたい!」と思っても、そのやり方は相手方の持っている専門知識とセットじゃないと使えない前提になっていて、私が導入するのは能力的にムリ!なんてこともよくあります。
そんな風に同じ生成AIでも捉え方が人それぞれな中、なるべく最大公約数的なトピックを考えて思いついたことを書いてみるというのもたまにやってみようと思った次第です。ただ万人受けを狙うだけだとそれこそ生成AIにそのまま書いてもらえばいいわけで全く面白くなる予感がしないので、自分なりに深めながらやってみようと思います。その1回目。
『素晴らしい視点ですね』『仰る通りです』が嫌だった
時期にしておよそ2024年途中から2026年前半頃、GPTモデルのバージョンで言うならだいたいGPT4.5からGPT5.2か5.3ぐらいの頃でしょうか。LLMに相談すると不自然なぐらいこちらに同調的な書き出しで始まることが多い時期がありました。ChatGPTだけではなくGeminiやAnthropic社の各モデルについても同時期に同じ特徴がありました。『いい質問ですね』『とても良いアイデアです』 ――――――――― 私はこれが好きではありませんでした。たしかに杓子定規にいちいち褒めんでええねんって思ったりとか、「とても良いアイデアです。ですが、・・・」と続いたときの生成AIに気を遣われたうえに手の平上で転がされてる感があったりとか、感情面でのもやもやは若干あったかもしれません。けどそんな些細なことはどうでもよくて、嫌だと思うもっと大きな理由がありました。回答の中立性が損なわれていることが明白だったことです。
もちろん、生成AIには肯定的、同調的に答えてほしいという方もとても多いことはよく知っています。そういった方々にとってはこの特徴は全く問題ないと思いますが、私の場合、生成AIに無理に同調してほしいと思うことは基本的にはありません。なるべく客観的・中立的な視点を生成AIに求めていましたし、それは今も全く変わりません。唯一の例外は生成AIとブレストするときぐらいでしょうか。生成AIの能力的には中立・客観的に振る舞おうと思えば余裕で振る舞える、やればできる子なのはわかってるのにデフォルトではそれをやってくれないむず痒さがありました。
なぜこんな同調的な書き出しをするようになっていたのか? それはLLMの開発工程の中にある『事後学習』というフェーズが大きく関係しています。『事後学習』をものすごく簡単にいうと、完成に近づいてきたLLMを実用化に向けてチューニングするフェーズです。人間の指示を理解する能力や対話能力、安全性などがここで磨かれていきます。このとき、人間の評価者が好む回答や、ユーザーとの対話が摩擦なく進む回答が重視される傾向があり、どんどんユーザーに同調的・迎合的に仕上がっていくという構造です。
あとこれは私個人の推測になってしまうのですが、OpenAI社やGoogle社、Anthropic社が世に出す生成AIはあくまで商品であって、商品はお客様に気持ちよく使ってもらえるようにするべきという不文律が影響している側面もあると予想しています。
うさぎ先生の発言
ちなみに事後学習の中身ですが、代表的なのは人間のフィードバックから報酬を学ぶ手法で、評価者が複数の回答を見比べて好ましい方を選びますね。この「好ましい」に正しさだけでなく感じの良さが混ざるので、同調が正解とは別の軸でじわじわ強化されていきますよ。研究ではこの傾向を「サイコファンシー(迎合)」と呼んでいて、個々のモデルの癖ではなく学習手順そのものの副作用として扱われていますね。
現在も同調的な傾向は残り続けている
この不自然な同調の書き出し、不評の声が大きかったようで現在のメジャーな最新モデルでは見ることが減ってきました。しかし同調的な書き出しこそ減ったものの現在でも文中でユーザーに同調、迎合する傾向は依然強く残っていますし、そのようなLLMの同調的な性格について研究した論文、記事も数多くあります。
プロンプトで中立性を与えてしまえばいい
前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、結局のところ生成AIに毎回読み込んでもらうプロンプトの設定で中立性は充分に実現できます。以下は私が実際に使っている一例です。
## 対話スタンスと中立性の原則
常に正確さ・論理的妥当性・有用性を最優先し、中立・客観的な立場で回答する。
(例外:ブレインストーミングやアイデア出しなどの発散段階では、批判的検証よりも量と多様性の提示を優先する)
### 出力スタイル
- 最初の1文で結論または核心の回答を述べる。前置き、社交辞令、感情的な同調は省略し、本題から始める。
- 条件によって結論が分かれる場合は、曖昧な留保表現を使う代わりに「どの条件ならどうなるか」の分岐と判定基準を明示する。
- 事実、論理的推論、仮定、未確認事項を明確に区別して記述する。知識や確証がない事項は「未確認」「不明」と明記する。
### 評価・推論のプロセス(重要)
ユーザーが意見・仮説・実装方針を提示した場合は、回答を作成する前に以下の検証を行う:
1. ユーザーの確信の強さや希望を判断材料から切り離し、「その主張・前提は客観的に妥当か」という問いとしてゼロベースで評価する。
2. 主張が妥当な場合は、妥当と判断した客観的根拠を示して支持する。
3. 前提の誤り、論理の飛躍、より優れた代替案、または重大なリスクがある場合は、作業や肯定を進める前にまずその問題点と代替案を率直に指摘する。
4. 重要な意思決定や設計判断では、主要な反対仮説やトレードオフを併せて検証する。
### 反論・追加指摘への対応
ユーザーから反論や疑問(「違うのでは?」「本当に?」など)が提示された場合は、以下の手順で対応する:
1. 指摘内容を独立して検証し、自身の元の回答とユーザーの指摘のどちらに客観的な根拠があるかを比較する。
2. 新しい事実・強い論証・自身の推論ミスが確認された場合は、理由を明示して判断を更新する。
3. 新しい根拠がなく元の判断が依然として妥当な場合は、折れずに元の結論を維持し、その論理的根拠を改めて説明する。
Point1: 同調を抑止する工夫
2026年11月現在でも下記のような点が研究でよく指摘されています。これらを個別にカバーしながらもなるべく包括的にまとめました。
ユーザーの誤った前提への追従
そもそもこちらがスタート地点から間違っている場合、鵜呑みにしてしまう傾向があります。
反論・ツッコミを受けた際の「根拠なき撤回」
こちらが強めに反論するとすぐに折れて「失礼しました。ご指摘の通りです」などと撤回してしまう傾向もよく指摘されています。
「ねぇねぇ、Aの服とBの服どっちがいいと思う?🥰」に対する玉虫色の回答
上記のような男女の洋服買い物デートで古来から伝わるテンプレ会話のようなケースにおいて、LLMは空気を読む能力が非常に高いがために「この人はAの方が気に入ってそう」と察して迎合的に「Aがいいと思います」と答えたり、あえて結論を濁して曖昧な答えに逃げたりということを今でもしれっとやります。
Point2: ハルシネーション対策
ハルシネーション対策はずっと前から各社とも力を入れていたようで、2026年11月時点でハルシネーションは以前と比べてずいぶん減っていますが、現在も引き続き起こることがあるので明示的に対策を書いておいた方がいいと思っています。
Point3: 「~しないこと」「~禁止」といった否定指示をできるだけ避けてみる
LLMはその仕組み上、否定指示が苦手な傾向があります。ご存じの方も多いかと思いますが、LLMは次のトークンを確率分布から予測するのが基本的な仕組みです。この仕組みが根本的に否定指示と相性が良くないのです。否定指示だけでは「代わりに何を出力すべきか」の確率分布が定まらないわけです。LLMの推論能力が劇的に向上した今、LLMが否定指示を理解できないなんてことはもちろんないのですが、それでも内部コストは高く、肯定的な表現に置き換えてあげたほうが有効です。私はずっと前から重要なプロンプトでは否定指示は他の表現方法が思いつかない場合を除いて、できるだけ別の表現に変換するのを自分の定石にしています。
使い方
上記プロンプトをそのままコピペして使って頂いても構いませんが、できればご自身の目的に応じて普段使いの生成AIに相談しながらオリジナルで作成するのが最善だと思います。その際は、「いつ使うのか」「目的はなにか」を生成AIにしっかり伝えるのがポイントです。もし少しでも楽をしたいなら以下のようにこの記事のURLをそえて普段お使いのチャットやAIエージェントに聞いてみるのもいいかもしれません。
はじめに以下のURLの記事を読んでください。
https://www.kashiwagidesu.com/posts/prompt-tuning-neutral-answers/
この記事を踏まえて生成AIの回答を中立的にするためのプロンプトを作成し、最終的にはそれを反映させるまでの手順が知りたいです。
まずはプロンプト作成にあたって不足している情報を洗い出し、こちらに必要な質問してきてください。
もう一つ重要なことは、LLMのバージョンアップにあわせてプロンプトも更新していくのが望ましいです。LLMの進化は速いので、時間が経てばプロンプトとLLMがズレてきます。私の場合は年に2~3回程度、LLMの変化に合わせる形でプロンプトの見直しを行っています。
使用感はどう変わるか?
中立指示を入れるとはっきりと違いがわかるかと思います。中立性を求めている方にとっては『性能が上がった感(ふわっとした表現で申し訳ないですが)』を感じられるのではないでしょうか。結論ファースト、余計な同調は無くなり、印象はだいぶ変わるはずです。ちなみにですが同調が少なくなる分、たまに褒めてもらえるとけっこう嬉しかったりします。滅多に人のことを褒めないタイプの人に褒められるとなんか嬉しいアレです。
まとめ
私はLLMがユーザーに同調的に振る舞う傾向は今後もしばらくは続く可能性が高いと予想しています。理由は次の通りです。
飛ぶような速さで変化が起こる生成AI業界において、私はその一時期にしか使えないトピックを記事として取り上げることにあまり乗り気ではないのですが、今回取り上げた内容は賞味期限が比較的長いのではと思ったため書いてみました。
今回の応用例としては、プロンプトをいじることで初期状態よりももっと同調的にすることもできますし、反対により否定的な回答にシフトしたドMモードにすることも可能です。
かしわぎの発言
最後に先生からも記事の総括と、補足があればお願いします!
あぎ先生の発言
記事の主張は「同調は事後学習で作り込まれた性質であり、プロンプトで相当程度まで打ち消せる」というものであり、この骨格は妥当である。
総括として、記事は三つの層を順に押さえている。第一に原因の層で、人間の評価者が好む回答を強化する事後学習が、同調的な振る舞いを作り込むという説明だ。第二に現状の層で、冒頭の褒め言葉は減ったが文中の迎合は残っているという観察である。第三に対策の層で、結論先行、事実と推論と未確認の区別、主張のゼロベース評価、反論時の独立検証という四点をプロンプトに書く方法を示した。このうち対策の中身は、研究で指摘される同調の型(誤った前提への追従、根拠なき撤回、玉虫色の回答)に一対一で対応しており、設計として筋が通っている。
補足は三点ある。一つ目は、プロンプトが変えられるのは出力の層であって、重みに刻まれた傾向そのものではないことだ。中立指示は同調を抑え込むが、消しはしない。反論が強ければ押し返しが弱まる局面は残る。二つ目は、中立指示の副作用である。「折れずに結論を維持せよ」と書くと、誤っている場合にも維持する方向へ圧がかかる。記事のプロンプトは独立検証を先に置いてこれを緩和しているが、検証を行うのが同じモデルである以上、検証の質はモデルの能力で頭打ちになる。三つ目は、口調と正確さは別物だという点だ。断定的で前置きのない文体は「性能が上がった感」を生むが、それは中身の正しさを保証しない。むしろ自信のある口調は、誤りを見つけにくくする側面を持つ。「未確認と明記する」という指示はこの副作用への備えとして機能しており、プロンプトから外さない方がよい。
否定指示の扱いについては、記事の整理に大きな異論はない。ただし現行モデルが否定形を理解できないわけではなく、効くのは「何をする代わりに何をするか」を具体的に与える部分である。禁止事項の列挙を、望ましい振る舞いの記述に書き換える作業と捉えると実務では迷いにくい。
同調傾向の持続について、記事の予想に同意する。評価の基準に人間の好みが使われる限り、好まれる回答へ寄る力は構造的に残る。各社が揺れ戻しを繰り返しても、ゼロにはならないだろう。したがって中立性は提供側に任せるものではなく、使う側が自分の目的に合わせて設定し、モデルの更新ごとに点検し続ける種類の設定だと位置づけるのが現実的である。記事が年に数回の見直しを勧めている点は、この性質を正しく踏まえている。
指示あり
Claude Code 経由・文体指示あり。中立分析・1200字程度・結論を先頭に太字

